たかが対話、されど対話──オープンダイアローグとの出会い

未来解決志向のブリーフセラピーとの出会い

公認心理師になって間もない頃、私はブリーフセラピーに夢中になっていました。
短期的で未来解決志向。問題の“原因”ではなく“解決”に目を向けるアプローチは、私の性格にもフィットしていて、これからの支援の中にどんどん取り入れていきたいと感じていました。

でも、ひとつ気になる点がありました。
ブリーフセラピーは基本的に「1対1」の関わり。
私は地域全体を支えるような支援もしたいと思っていたので、「これだけで足りるのかな?」と、どこかで引っかかっていたんです。
地域支援のイメージは、元の施設で取り組んでいた喫茶店のような、みんなが自然に集まれる場。
だからこそ、多人数でも関われるような心理的アプローチがないかと、模索していた時期でもありました。

古本屋で出会った「オープンダイアローグ」

そんなある夏の日。たまたま立ち寄った古本屋で、私は一冊の本に出会います。
目に飛び込んできたタイトルは『オープンダイアローグとは何か?』(斎藤環 著)。
「開かれた対話?ナラティブセラピーっぽいのかな」と思いながら、手に取ってみたのが最初でした。

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このオープンダイアローグは、1980年代にフィンランドの西ラップランド地方で生まれました。
当時、統合失調症の急性期患者の再発率は80%を超えていた地域。
そこに「対話」を軸とした介入を始めたところ、薬を最小限に抑えながらも、約9割の人が社会復帰を果たしたのです(Seikkula et al., 2006)。

日本に入ってきたのは2013年に公開されたダニエル・マックラー監督の「オープンダイアローグ」がきっかけと言われています。

オープンダイアローグは単なる治療法ではありませんでした。
医療者や家族が一方的に患者本人に「治療する、支援する」のではなく、本人を含めたすべての関係者が、“対等なまなざし”で語り合うことによって、物語が再構築され、その意味が取り戻されていく。

本を読み進めるうちに、私は本の中の言葉に何度も立ち止まり、心を揺さぶられていました。
もともとは統合失調症の治療に用いられていた対話的アプローチでありながら、精神疾患があるかどうかに関係なく、「開かれた対話」によって人の心が安定していくプロセスが見えたからです。

「開かれた対話」には、心を整え、安心を取り戻す力があるのかもと思った瞬間でした。
「あ、これかもしれない」と、体の奥から震えるような感覚がありました。

「たかが対話」に、心が整えられる体験

それから私は、関連書籍を読み漁り、研修を受け、実際に体験できる場にも足を運ぶようになります。
特に、森川すいめいさんの対面ワークに参加したときのことは、今もはっきり覚えています。
※(すいめいさんは「先生」と呼ばないで、とおっしゃっていたので、“さん”で失礼します)

正直、心の奥底には「たかが対話で、何が変わるのか」と思っていた自分もいました。
でも、あの場で「話を聞き切ってもらう」という体験をしたとき、気持ちがふっと安定していくのを感じたんです。
自分の言葉が否定されずにそこに存在していいという感覚。
その時間が、どれだけ心を整えてくれるかを私は身をもって知りました。

地域支援としての“対話”の可能性

「これは、地域でも十分に支援として機能する」
すいめいさんのワークでそう確信できたのが、私にとっての大きな収穫でした。

オープンダイアローグは、特別なセラピーではありません。
でも、誰でもただ話せばいいというものでもありません。
対話の場には、「安心して話せる」空気や関係性が必要で、そのためには一定のルールや場を守る人が不可欠です。
誰かが誰かを変えるのではなく、「一緒にいる」こと、「一緒に考える」ことを大切にする対話。
それが、支援としての力を持つのです。

YouI=EQUITYで実現したい“対話の場”

私は今、YouI=EQUITYという共生をテーマにした活動の中で、オープンダイアローグ的な対話の実践を広げようとしています。

そこには、障害の有無に関係なく「あなたと話すことに意味がある」と感じられる場をつくりたい、という願いがあります。

誰かが孤立せずにいられる社会をつくるには、制度や支援だけでは足りません。
その人の語りに耳を傾け、存在を認め合える場が必要です。
たとえ問題がすぐに解決しなくても、「一緒に話せた」という事実が、その人の心を深いところで照らしてくれることがある。
それを、オープンダイアローグは教えてくれました。

たかが対話、されど対話。
オープンダイアローグに出会ってしまった以上、私はもう、この“力”を使わずにはいられません。
現に今、あなたの、この社会の、話しを聞きたいと心から思っています。

この記事を書いたのは

植竹 美保
団子の焼ける公認心理師
こころ整備士(認定専門公認心理師)の植竹美保です。
たまに団子屋になりながら、支援者支援をメインに活動しています。

もう疲れた、先に進めない、進みたくない。
そんな風に思ったら、私と一緒にこころを整備してみませんか?
少しでも皆さんの心持ちが軽くなるようなお手伝いができればと思っています。
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