人と関わる中で、言葉にしない「間(ま)」の時間に、実は大切なメッセージが隠れていることがあります。

沈黙の時間、言葉にするまでの空白、相手の心が動くのをただ待つ時間。
私は長年、障害者支援の現場で働いてきましたが、そこで一番身についたことは「待つこと」でした。
むしろ、それを教えてくれたのは職員ではなく、利用者の方たちでした。
支援の現場で“待つ力”を学んだ私が出会った、とある朝のエピソードから見えてきた、「関係性を育てる間」の話です。
「間」を使うのが上手なのは、皆んなだった
私たち支援者は、ときに「動かすこと」「進めること」に意識が向きすぎて、つい相手の“間”を無視してしまうことがあります。
でも、実はその“間”の中に、相手の本音や気持ちが詰まっている。
それに気づけるようになると、自然とコミュニケーションもスムーズになっていきます。
こんなことがありました。
ある朝のこと

ある朝、施設の玄関先で、利用者のひとりがじっと立ち尽くしていました。
声をかけても動かない。
「あ、きっと家で何かあったんだな」と思いながらも、「おはよう」と声をかけます。
しかし、全くの無反応。時間はどんどん進みます。
朝のミーティングも始まる時間で、私に少し焦る気持ちもありました。
それでも、その人が発する“間”を信じて待つことにしました。
長い沈黙のあと、ポツリとこう言ったのです。
「おとーちゃん、ゴンっ」
おそらく、朝、お父さんにゲンコツをされたのでしょう。
「そうだったんだ。それは痛かったね」と返すと、「んっ」と頷いて、彼は歩き出しました。
このとき、もし私が彼の手を引いて無理に中へ連れていこうとしていたら、きっと彼は何も話さず、気持ちも置き去りにされたままだったと思います。
“間”は信頼を育てるベース

「間」は、ただの沈黙ではありません。
それは、相手の中にある言葉が育ってくるのを待つ時間。
無理に詰め込まないことで、相手が自分のタイミングで動き出せるようになる。
そのとき初めて、「自分で動けた」という感覚や「聴いてもらえた」という安心感が生まれるのだと思います。
人との関わりにおいて、“間”を大切にできることは、相手を大切にしていることと同じです。
特別なスキルやテクニックではなく、「信じて待つ」という姿勢。
それが、支援の現場だけでなく、家庭でも、職場でも、人との関係性を温かくしてくれるベースになります。
おわりに
“間”があるからこそ、気づけること、つながれることがあります。
忙しさに流されそうになる日々の中でも、ちょっとだけ立ち止まって、相手の“間”に耳を澄ませてみませんか?
それはきっと、あなた自身の心にも“間”を取り戻すことにつながっていくはずです。
コメント