新幹線でナラティヴ(物語)を聴く

あなたの大切な人は、何を話しているだろう

あなたの大切な人は、何を話していますか?

子どもたちは今、どんなことを考えているのでしょうか。

パートナーは?
一緒に働く人は?
親しい友人は?

私たちは、身近な人の「今」は案外よく知っています。

仕事はどうしている。
学校はどうしている。
忙しそうだ。
最近、元気そうだ。

でも、「本当は、どこへ行ってみたいんだろう」とか、「この人は、何を大切にして生きてきたんだろう」ということは、意外と知らないのかもしれません。

先日、そんなことを考えさせられる人に、新幹線の隣の席で出会いました。

名残惜しそうに手を振る男性

お盆の帰り道。
私は新幹線に乗るためにホームに立っていました。
少し離れたところで、若い女性と少し年配の男性が、名残惜しそうに話し込んでいます。
男性はスマートフォンで動画まで撮っている。

「ずいぶん仲のいい年の差カップルだな」

そんなことを勝手に思いながら、新幹線に乗り込みました。

すると、その女性と私は同じ列の席。
私は窓側だったので、「手を振るなら、窓側の方へどうぞ」と、席を替わりました。

手を振り終わり、発車して少し経ったころ、ふと聞いてみました。

「さっき一緒にいた人は、、、彼氏?」

すると、

「父です!でも、喜ぶと思います。」

あっ…お父さんだったか(笑)

そこから、なんとなく話が始まりました。

「仲は良いですけど、、、」

彼女は大学を卒業したばかり。
大学時代から親元を離れ、今は東京で一人暮らしをしながら働いているらしい。

「いつから東京にいるの?」
「大学からです」

そんな話をしているうちに、手を振るお父さんの姿を思い出していました。

きっと心配なんだろうな。
でも、心配だけでは語りきれないんだろう。
大学から娘を1人、東京で暮らさせることは簡単ではなかっただろうな。

そこには、きっと心配と一緒に、

「この子なら大丈夫」という信頼もあるんだろうと思いました。

「仲良いんだね」と聞いてみると、
「仲は良いですけど、洗濯は別です」

そこは別なんだ(笑)
でも、なんだかいい親子だなと思いました。

心配する。
でも、任せる。

近くにいたい。
でも、その人の人生を歩かせる。

親子って、そういうものなのかもしれません。

そして私は、だんだんと、この子がどんなふうに育ってきたのかを知りたくなっていました。

「本当は、海外とつながる仕事がしたかった」

仕事の話になって、

「どんな仕事をしているの?」と聞いてみました。

すると、

「本当は海外とのつながりがある仕事がしたかったんです。」
「でも、今は全然違う仕事で……」

やりたかった仕事には、就けなかったと彼女。

まだ働き始めて数か月。
でも、自分が思っていた仕事とは違う。

親元を離れて暮らしている。
奨学金も返さなければならない。

親には心配をかけたくない。
だから、今は頑張らなきゃ。

そんな、真面目な子でした。

でも、話を聞いていると、私の悪い癖がムクムクと顔を出してきます。

「海外との架け橋になるような仕事がしたい」って、その夢は、どこから生まれてきたんだろう。

この人の背景を聞いてみたいという悪い癖。
あと2時間以上の長い新幹線旅。
思い切って聞いてみました。

「それって、どこから生まれてきた夢なの?」

すると、大学時代の短期留学の経験や、もっと外の文化を感じてみたいという気持ちを、たくさん話してくれました。
話しているうちに、少しずつ、彼女の中にあったものの輪郭が見えてきます。

そして、最後に出てきたのが、「カナダに留学したい」という夢でした。

夢は、なくなったわけじゃなかった

そのとき私は、「ああ、これなのか!」と思いました。

彼女の中に新しい夢が生まれたというより、忘れかけていた夢をもう一度見つけた。
そんな感じがしたんです。

やりたかった仕事に就けなかった。
違う仕事に就いた。
お金のことも考えなければならない。
親にも心配をかけたくない。

そうやって目の前の現実を一つずつ引き受けているうちに、

「もっと外の世界に飛び出したい!」

という気持ちが、いつの間にか心の奥のほうにしまわれていたのかもしれません。

でも、なくなったわけではなかった。
話してみたら、ちゃんとそこにあった。

じゃあ、今いる場所でできることって?

「カナダに留学したい。」
それを見つけたら、次は現実の話です。

「それなら、今の仕事でできることもありそうだよね?」

と聞くと、「お金を貯めなきゃ」と彼女。

そうだよね。
留学にはお金がかかる。
奨学金のこともある。
もちろん日々の生活のこともある。

でも、見えちゃった夢に向かうためには?
そこから、まずは3年間かけて準備していくための作戦開始です。

今の仕事を続けながら、少しずつお金を貯めていく。
日々の「やってみたい」と思えることも探していく。
随分と端折りましたが、そんな作戦になりました。

もちろん、絶対にその通りにしなければいけないわけではありません。

3年後に状況が変わるかもしれない。
途中で別の夢が見つかるかもしれない。
カナダに行かないかもしれない。

それでもいい。

ただ、「やりたい仕事じゃないから、今は仕方なく頑張る」のではなく、

「いつか行きたい場所がある。そのために、今の場所でできることをやってみる」

と考えられたら、同じ毎日でも少し意味が変わる
そんな気がするのです。

「頑張らなきゃ」ではなく「頑張ってみます」

私が先に新幹線を降りる、その直前。

彼女が、「話を聞いてもらって、自分の中を整理できました」
と言ってくれました。

そして、「頑張ってみます」と。

その顔が、とても晴れやかでした。
頬が少し高揚していて、眩しいくらい。

私は、その「頑張ってみます」がとても嬉しかった。
「頑張らなきゃ!」ではなかったから。

誰かに言われたから頑張るのではなく、

自分の中から出てきた宝物に向かってみる」

そんな言葉が、彼女の心の中に置かれたように見えました。

大切な人の「今」の向こう側

彼女との会話を思い返していると、身近な人との関わり方について考えます。

親なら、子どもの将来を心配する。
上司なら、部下の成長を考える。
パートナーなら、相手が幸せであることを願う。

だからこそ、

「こうしたほうがいいよ」
「せっかくここまでやったんだから」
「今は頑張ったほうがいいよ」

と、答えを渡したくなることがあります。
私自身も、そういう場面がたくさんあります。

でも、その人がまだ言葉にできていないものを、少し待ってみる。
「どうしたいの?」と急かすのではなく、「それって、どこから生まれてきたんだろうね」と、一緒に辿ってみる。
すると、その人自身も忘れていたものが、ふっと出てくることがあります。

今回の彼女にとって、それは「カナダへの留学」でした。
でも、本当に大切だったのは、カナダという場所だけではないのかもしれません。

「私は、もっと外の世界を見てみたかったんだ」と、自分自身で思い出せたこと。
そして、「じゃあ、今ここから何ができるだろう」と考えられたこと。

その二つだったのかもしれません。

あなたの大切な人は、何を話しているだろう

最初の問いに戻ります。

あなたの大切な人は、何を話していますか?

今の仕事の話。
学校の話。
お金の話。
家族の話。
将来の話。

もしかしたら、いつも同じことを話しているように見えるかもしれません。

でも、その言葉の少し奥に、

「本当は、こうしてみたい」
「本当は、こんな場所に行ってみたい」
「昔は、こんなことを夢見ていた」

というものが隠れているかもしれません。

もちろん、無理に聞き出す必要はありません。
本人が話したくないことまで、掘り起こす必要もない。

ただ、もしそんな話が出てきたら。
すぐに答えを渡すのではなく、

「それって、どこから来たんだろうね」

と、一緒に眺めてみる。
そんな時間があってもいいのかもしれません。

未来は見えないから、苦しくて、面白い

偶然、新幹線の隣に座った彼女が、3年後にどこにいるのかは分かりません。

カナダにいるかもしれない。
別の場所にいるかもしれない。
今とはまったく違う仕事をしているかもしれない。
そもそも、カナダという夢が変わっているかもしれない。

それでいい。

私は「また話を聞かせてね」と伝えましたが、聞かせてもらえなくても良いとも思っています。
それは私にまた話を聞かせることが答え合わせになってしまうから。
それでも、また何かの奇跡が起こって聞かせてもらえたら嬉しいんだろうな。

あのとき、「このままでいいのかな」と迷っていた彼女が、これからどんな物語をつくっていくのか。
人の人生は、一本の線路をまっすぐ走るものではきっとないから。

乗り換えることもある。
遠回りすることもある。
思っていた電車とは違う電車に乗ることもある。

でも、ときどき誰かと話しながら、

「私、どこへ行ってみたいんだっけ?」

と思い出せたら。
それだけでも、また少し先の景色が見えてくるのかもしれません。

……しかし。

「新幹線カウンセリング」って、案外仕事になるんじゃない?

いや、仕事じゃなくていいやw

私の「もっと聴かせて欲求」を満たしてくれる方。
ぜひ、お隣に座っていただけたら嬉しいかも。

まあ、次はちゃんと名刺を持って乗ろうと思います(笑)

この記事を書いたのは

植竹 美保
団子の焼ける公認心理師
こころ整備士(認定専門公認心理師)の植竹美保です 。
たまに団子屋になりながら、「支援のあり方」「個人のあり方」を共に探求する共同研究者として活動しています 。

もう疲れた、先に進めない、進みたくない。
そんな風に思ったら、私と一緒に、その「現実」の読み解き方を研究してみませんか?

一方的に「支える」のではなく、共に問い、背景に光をあて、新しい文脈を共創していく。
あなたのこころ整備を、対等なパートナーとして共に行うことが、私の今のスタイルです。
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